4月23日(日)10:00-17:00
会 場:学習院大学(JR目白駅下車5分)
http://www.gakushuin.ac.jp/mejiro.html
参加費:会 員 1,000円(学生800円)
非会員 1,500円
4月22日(土)13:00~17:00(受付開始12:30、会場:北1号館401)
*総会
*大会記念講演会
上島 有(摂南大学名誉教授)
「東寺百合文書からアーカイブズ学へー中世アーカイブズ学への思いー」
日本中世におけるアーカイブズから、アーカイブズ学研究を見つめ直し、推進することを企図して、次の講演を用意した。講演では、アーカイブズの「かたち」、「かたまり」、「かさなり」という従来の形態論、構造論、伝来論に相応する観点からその重要性や新しい史料学の展望についてお話しいただいた。
*懇親会(会場:学習院大学輔仁会館)*会費:3,000円
4月23日(日)10:00~17:00(受付開始9:30)
◎自由論題研究発表会
【会場:北1号館201教室、北1号館401教室】
2005年12月より会員に研究発表を公募したところ、6件の応募が得られ、委員会による審査の結果、次の報告がおこなわれることとなった。デジタル情報技術を応用した保存活用論から日本と海外におけるアーカイブズの歴史に至るまで、多種多様な報告が得られた。今後のアーカイブズ学研究に大いなる刺激が与えられたものと考えられる。
平澤加奈子(東京大学史料編纂所研究支援推進員)、鈴木靖民(國學院大學文学部)、田中史生(関東学院大学経済学部)
「『入唐求法巡礼行記』データベースの可能性-写本資料の活用にむけて-」
高橋 実(人間文化研究機構国文学研究資料館アーカイブズ研究系)
「熊本藩の文書記録管理システムとその特質」
清水邦俊(千葉県文書館 県史・古文書課)
「近現代文書の目録編成について-千葉県における改正地券を素材に-」
田嶋知宏(筑波大学大学院図書館情報メディア研究科博士後期課程)
「アメリカの州アーカイブズとレコードマネージメント-州歴史協会(State Historical Society)の位置づけに着目して-」
藤吉圭二(高野山大学文学部)
「歴史資料活用におけるデジタル技術の役割─高野山大学の取り組みを事例として-」
松崎裕子((財)渋沢栄一記念財団実業史研究情報センター 企業史料プロジェクト担当)
「企業史料と情報共有─欧米の事例と渋沢財団実業史研究情報センターの取り組み-」
◎シンポジウム(13:30~17:00) 【会場:北1号館201教室】
≪アーカイブズ専門職の未来を拓く≫
日本におけるアーカイブズ専門職は、未だに確立していないだけでなく、電子記録管理やインターネット情報社会への対応などの新しい課題に直面し、その学理の再検討に迫られていると考えられる。これまでアーキビスト教育・研修に関わってきた4名に、その現状・内容、自己評価、および課題と展望を報告してもらい、1)共通する課題を出し合い、2)新しい時代に相応しいアーキビスト像を構想し、3)相互の多様な連携から効果的な教育・研修を実現するために研究討議することとした。
針谷武志(別府大学文学部助教授)
「大学と大学院のアーカイブズ教育-別府大学の事例を中心に-」
波多野宏之(駿河台大学文化情報学部長)
「アート・ドキュメンテーションの専門職能とデジタル・アーカイブズ-教育・研修に向けて-」
高山正也(独立行政法人 国立公文書館理事/慶應義塾大学名誉教授)
「専門職の未来を考える:図書館専門職の反省に立って」
渡辺浩一(人間文化研究機構国文学研究資料館助教授)
「アーカイブズ・カレッジの実践」
針谷報告は別府大学が開始したアーカイブズ課程におけるカリキュラム等の特徴と課題、波多野報告はデジタル・アーカイブズやドキュメンテーション技法をめぐる現状について、そして渡辺報告では1988年より発展させてきたアーカイブズ・カレッジの豊富な実績とそこで示された課題について述べられた。また高山報告では、R.H. Hall等の専門職化指標に依拠しつつ、日本の現状はその途上にあることを示した。
討議においては、「アーカイブズ専門職像・ディシプリン」および「専門職制度の構築」の2点を柱として質疑応答と意見交換がなされ、その実現への見通しをさまざまに浮かび上がらせた。
これらの報告は、本会『アーカイブズ学研究』第5号(2006年11月)に掲載されたのでご参照いただきたい。
参加者数:181名
2006年度大会自由論題研究発表会 |
-写本資料の活用にむけて-
鈴木靖民(國學院大學文学部)
田中史生(関東学院大学経済学部)
平澤加奈子(東京大学史料編纂所)
『入唐求法巡礼行記』は、9世紀初めの東アジア世界を知る上で大変貴重な文献であり、研究上重視されているが、原本や影印本の閲覧が困難なため、全体かつ細部にわたる校定・解釈は十分に行われていない。そこで報告者らは本資料の画像データ及び研究の最新状況を広く公開することにより、さらなる研究の活発化を促進させることを企図し科学研究費補助金により影印本をもとに『入唐求法巡礼行記』の総合的なデータベース作成と公開検索システムの開発を行った。その開発過程においては、デジタル化に伴う史資料の保存・管理と公開・活用・研究について考量することが必要であった。 本報告ではこの『入唐求法巡礼行記』データベースの開発事例をもとに、写本資料を題材として歴史学とアーカイブズ学の視点から史資料のデジタルデータによる活用・研究の具体的事例を示すとともに、データベース開発にあたってその運営・管理などについて報告し、史資料のデジタルアーカイブを行う上での一つのモデルケースを提示したい。
熊本藩の文書記録管理システムとその特質
高橋実(国文学研究資料館アーカイブズ研究系)
アーカイブズ学の一分野に記録史料の管理史研究がある。これは記録史料が作成・管理保存され伝存するにいたった状況や環境(管理保存制度、保存形態、保存空間など)を歴史的に明らかにするものである。 本報告は、熊本藩の各部局における文書記録の管理保管システムと、長期保存そして永年保存文書記録として諸帳方に移管されていく管理保存システムの具体相とその特質について検討するものである(現在の文書記録のライフサイクルの考え方に基づいて熊本藩の管理保存システムを論ずることには問題がある。しかし、熊本藩の文書記録管理保存システムの特質を鮮明にするために、とりあえず文書記録のライフサイクルの視点で検討してみるのも意味がないとはいえない)。 本報告が、個別事例研究にとどまらず、日本近世の幕藩政文書管理の歴史的位置、意味、役割を明確にし、藩政文書記録の構造的把握につながれば幸いである。 熊本藩の文書記録の管理・保存には3段階があった。現用・半現用の文書記録はそれぞれの部局で管理保管していた。各部局では、不定期にそれら文書記録を評価・選別し、長期保存を要するものは諸帳方に引き渡し、引き継いだ諸帳方はそれらの文書記録を整理し、入目録を作成し、御蔵に配架し管理保存する、というシステムを確立していた。さらに御蔵保存文書記録の中から永年保存文書記録を収納する坤櫓への移し替えが行われていた。諸帳方は御蔵と坤櫓を管理し、半現用・非現用文書記録を専門に管理保存する部局である。 原局での文書記録の作成・保管から御蔵・坤蔵への移管や移し替えなどの熊本藩における文書記録管理保存システムは、評価・選別と廃棄を前提に運営されていた。 しかし原局では、保管場所があるかぎりできるだけ多くの文書記録を原局で保管しており、引き渡されるのは一部というのが実際の姿ではないだろうか。それでも文書記録のライフサイクルという考え方や文書記録専管部局である諸帳方の設置と移管システムの存在は注目に値する。
近現代文書の目録編成について
-千葉県における改正地券を素材に-
清水邦俊(千葉県文書館)
近年、段階的整理方法が提唱されて、文書群の構造を体系的に編成した基本目録の作成が試みられ始めてきた。しかしながら同時に、組織体の職務を反映させた項目(ISADではシリーズレベル)の設定の困難さが指摘されてきている。 一方で、近世の名主や明治期の戸長を務めた家に伝来している名主戸長文書(あるいは地方文書)は大量に存在している。それらの文書群についての編成や記述は論じられることがなかったように思われる。 地方文書を整理していると明治期の地券が大量に存在する場合が多い。そしてそれは大量に存在するだけに、地券本来の作成背景や伝来事情を無視した機械的な記述や編成が行われてきたと思われる。 以上の問題点をふまえて、本報告は千葉県における改正地券を素材に基本目録の編成について検証をしてみたい。まず、地租改正の流れを押さえ、その中で地券の裏書きの変遷と意義を見いだす。そしてそれらをふまえて地券の編成例を提示したい。
アメリカの州アーカイブズとレコードマネージメント
-州歴史協会(State Historical Society)の位置づけに着目して-
田嶋知宏(筑波大学大学院図書館情報メディア研究科 博士後期課程)
アメリカにおいて、アーカイブズ資料と現用文書の管理は、深く関わりを持っている。アメリカの州の中には、アーカイブズ資料管理事業とレコードマネージメント事業を同一の組織が担う場合もあれば、そうでない事例も見られる。また、州ごとに、州アーカイブズの組織上の位置づけは、独立機関、州立図書館の一部門等さまざまである。今回は、歴史的な事業を中心に活動する歴史協会によって、州アーカイブズが担われている事例を取りあげた。そして、州歴史協会におけるアーカイブズ業務の位置づけやレコードマネージメントとの関係を調査した。法令上は、州アーカイブズとレコードマネージメントに関する規定の多くが、別の条項として制定されていた。州歴史協会の多くは、州アーカイブズの責務を担うとともに、州歴史記録委員会などを通じて、レコードマネージメントと繋がりを持たせている。
歴史資料活用におけるデジタル技術の役割
─高野山大学の取り組みを事例として-
藤吉圭二(高野山大学文学部)
デジタル技術を歴史教育に用いることには、以下のようなメリットがある。(1)資料をデジタル化して利用すれば、現物資料を傷める心配がなくなる。これにより従来に比べ初歩的な教育段階で貴重資料を利用することが可能になる。(2)PC上での閲覧が中心となるため、資料への電子的な書きこみが容易となる。(3)古地図をはじめとする画像資料の場合には解説データを、また古文書目録データの場合にはそのデータ自体をデジタル化してウェブにあげるということが技術的には比較的容易となり「学んだ成果をインターネットで公表する」という方向で学生の意欲を喚起することに効果を期待できる。(4)すでに失われている歴史遺産についても「コンピュータグラフィクスを用いて再現してみる」という作業を目標として設定することによって、どのようなデータを確定すればよいかについて一定の目安を得ることができる。本報告では、こうした諸点について高野山大学で報告者が進めてきた取り組みを事例として用いながら紹介する。
企業史料と情報共有
─欧米の事例と渋沢財団実業史研究情報センターの取り組み─
松崎裕子(渋沢財団実業史研究情報センター 企業史料プロジェクト担当)
企業史料を含む民間所在史料の情報共有の核として、英国・米国では中央政府レベルでコミッション制度が用いられてきた。英国のHMCが管理運営するNRAのデータベースには2万9000件超の企業史料群情報が収録されている。米国のNHPRCの事業では外部保存機関に移管された企業史料が情報共有の範囲に含まれる。 米国・英国のアーキビスト団体は1960年代以降、企業アーカイブズのディレクトリ編纂に取組んできた。インターネットの普及により、SAAのディレクトリや、NRAのデータベースはウエブ上で公開され、史料情報へのアクセスが促進されている。 日本の民間所在史料の情報共有化は近年、文科省科研費プロジェクトとして展開している。現時点ではそれらは近現代企業史料を包括的な調査対象とはしていない。現状では、ビジネス・アーキビストのネットワーキングという形で情報共有を目指すのが現実的選択であり、その前提としてビジネス・アーキビストの養成が不可欠である。 企業内で保存され利活用される史資料と外部保存機関所蔵企業史資料では、想定されるユーザやアクセスに対する制限がしばしば異なる。企業史料の情報共有化でとりわけ考慮すべき点である。