日本アーカイブズ学会は、中山恭子公文書管理担当大臣(当時)及び公文書管理の在り方等に関する有識者会議に対し、「公文書管理の在り方等に関する有識者会議『中間報告』に対する日本アーカイブズ学会意見書」を提出しました。
これは、2008年9月4日に開催された日本アーカイブズ学会委員会の決定に基づいて提出されたものです。
意見書では、「公文書管理の在り方等に関する有識者会議」の最終報告の作成にあたり、以下の3点について十分に検討するよう求めています。
(1) 公文書管理とアーカイブズに関する体系的な法制度の整備
(2) 記録管理とアーカイブズ管理の国際的水準を満たす「ゴールド・モデル」の策定
(3) 国民に開かれた持続性のある専門職養成制度および資格制度の樹立
なお、意見書の全文は以下の通りです。
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公文書管理担当大臣 中山 恭子 殿
公文書管理の在り方等に関する有識者会議 御中
会長 高 埜 利 彦(公印)
日本アーカイブズ学会意見書
日本アーカイブズ学会は本年5月21日、公文書管理担当大臣に対し「アーカイブズ制度の拡充に向けて」と題する要望書を提出し、わが国における公文書管理を改善するためにはアーカイブズ学の研究を振興するとともにアーキビストを養成することが欠かせないという観点から、特に以下の4点について検討をお願いした。
1.アーカイブズ法制の整備並びにアーカイブズ政策の構築について
2.公文書館法の附則第2項の撤廃について
3.アーキビスト養成と資格認定制度について
4.アーカイブズ学研究の振興について
このたび公文書管理の在り方等に関する有識者会議が公表した中間報告『時を貫く記録としての公文書管理の在り方 ~今、国家事業として取り組む~』は、わが国の公文書管理の在り方を根本的に改善し、民主主義の基盤システムたるアーカイブズ制度の確立に道を開こうとするものであり、本会はその画期的な意義を高く評価する。一歩も後退することなく、その実現に向けて関係各位の一層の努力をお願いするものである。
本会は、去る8月15日にパブリックコメントを電子メールにより提出したところであるが、上記5月21日付要望書の趣旨に鑑み、会としての考え方を更に詳しく述べる必要を感じ、ここに意見書を提出する。すなわち最終報告の作成にあたっては、以下の諸点について十分な検討をお願いするものである。
(1) 公文書管理とアーカイブズに関する体系的な法制度の整備
(2) 記録管理とアーカイブズ管理の国際的水準を満たす「ゴールド・モデル」の策定
(3) 国民に開かれた持続性のある専門職養成制度および資格制度の樹立
以下では、この考え方について説明する。
(1) 公文書管理とアーカイブズに関する体系的な法制度の整備
公文書(記録)の作成・管理から最終的な保存ないし廃棄、およびその活用までの一貫した管理システムとなる「ゴールド・モデル」を実現するためには、「公文書管理法(仮称)」のような記録基本法の制定が不可欠である。先ずもって、この法律の制定を確実なものとしてもらいたい。
またこのような法律の制定にあたっては、公文書管理システムの一貫性を維持するために、既存のアーカイブズ法制(公文書館法や国立公文書館法)や情報関連法制(情報公開法や個人情報保護法)との調整を行い、同時に改正することが必要である。
なお、最終報告書においては、地方公共団体の公文書管理、民間部門における記録管理および公文書館等における民間文書の適切な保存・活用についても、それが推進されるように方向性を示してもらいたい。
(2) 記録管理とアーカイブズ管理の国際的水準を満たす「ゴールド・モデル」の策定
「ゴールド・モデル」の策定にあたっては、各府省の文書管理の現状について詳細な把握と分析が不可欠である。記録管理学やアーカイブズ学の専門家を交えた総合的調査を緊急に実施することが必要である。
十全なる公文書管理は、国内における事案への対応にとどまらず、国際的な全ての交渉においてその基盤を作り、主張や説明を強化するものでもある。このような点で、「ゴールド・モデル」は、国際的な記録管理とアーカイブズ管理の水準を満たしていなければならない。アーカイブズ学と記録管理学は、これに関わる基準やスタンダードについて長年にわたって検討を行ってきた。ぜひともこれらの蓄積を踏まえていただきたい。特に「レコード・スケジュール」と「中間書庫(レコード・センター)」を中核にした統一的記録管理システムや、記録を作成の前段階から管理する電子記録管理については、世界各国に先行研究例や実例があるので、積極的に検討して採り入れるべきである。
「ゴールド・モデル」の策定にあたって最も肝要なことは、このような公文書管理制度の改善が、現場の職員にとって極めて有益であることではないだろうか。これまでとの変化を小さく見せるよりも、むしろこの点を前面に出し、「国家事業」として進められることを期待する。
(3) 国民に開かれた持続性のある専門職養成制度および資格制度の樹立
報告書にある通り、公文書管理のあり方を改善するためには、アーキビストやレコードマネージャー等の専門職が果たす役割が非常に大きく、現場に配置することが欠かせない。最終報告書では、国の機関のみならず地方公共団体にもアーキビスト等の配置を義務づける、という方向性を明示されたい。
ところが、実際にはアーキビストやレコードマネージャー等の専門職の教育・研修も、諸外国に比べて著しく遅れており、それを推進する制度の樹立が欠かせないものとなっている。このような広い意味での専門職の養成は、その専門職が国や地方公共団体だけでなく企業・団体等への配置も必要であることや、学術研究を通して科学的な信頼性を高める必要があることから、広く記録管理学やアーカイブズ学の学術研究を基盤としなければならないであろう。
この意味で、学術研究機能と国民に開かれた教育システムを併せ持つ大学院のような高等教育機関がじっくりとこの養成に取り組むことが求められる。また公文書管理担当機関(国立公文書館を含む)が研究と研修実施の機能を持つことはたいへん望ましいが、それは公文書管理と現場職員に対する研修が中心になるため、それだけでは十分ではない。公文書管理担当機関による研修と大学院等高等教育機関における専門職教育は、同時並行的に整備されなければならない。
また、一定の水準をもつアーキビストやレコードマネージャーを安定的に養成していくためには、教育と研修の全体を通した体系的な資格制度を樹立し、それによる職務権限や昇進制度等を整備していかなければならない。これについての研究会を早期に立ち上げ、アーキビストやレコードマネージャーの養成を促進する方策を講じることが必要である。
以上、本会の考え方を述べたが、いずれについても、求めに応じさらに具体的な提案をしたり、人的資源を提供したりすることができることを付記する。
これらを検討の上、公文書管理制度の改善、すなわち21世紀の日本を支え、構築する「国家事業」を広く深く推進することを強く願うものである。
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